先日、深作欣二監督の1975年の作品『資金源強奪』を拝見しました。主演はKin’ya Kitaōjiさんで、理不尽な境涯に身を置きながら、孤独な熱望の火を絶やさない好演。不良刑事役のTatsuo Umemiyaさんも、どっちが悪役かわからない、したたかでアウトローな刑事を演じ、自分の欲望にとても忠実であったために、地位を失い、曖昧な立ち位置へ転がり落ちてゆくときに、どこか鷹揚に構えて冷静に悪漢と化してゆく様が印象的な好演でした。Hideo Murotaさんのコミカルな名脇役ぶりも見事でしたし、Takuzo Kawataniさんの可哀想になってくるほどの泣きの入った狼狽ぶりも印象的でした。最後まで小気味いいテンポと、二転三転の脚本まわしで目が離せない展開で、リラックスして楽しめる良い作品でした。廃墟に近い襤褸家屋や、町の寒々しい安ホテルや、今と同じようで少し違うような気もする銀行や、歩道橋をすれ違う人々の佇まいなど、当時の街の雰囲気が堪能できるという意味でも、なかなか興味深かったです。深作監督は同年に新仁義なき戦い 組長の首など、四作品を監督しており、多作なキャリアのなかでも1972~1976年の多作ぶりは、ちょっと際立っているようです。そんな時期の作品のなかでも本作は、ヒッチコック作品で云えば、グレース・ケリー主演の『泥棒成金』のような、コミカルでリラックスしたムードが一際豊饒に漂っている、魅力的な異色作になっていると思います。皆さんも機会があれば是非ご覧になってみてください。
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