オーディション 三池崇史監督

1999

三池崇史監督の1999年の作品、『オーディション』(Audition_(1999_film))を拝見しました。
石橋凌さんの寂しそうな感じが、とても良かったです。國村隼さんとお酒を酌み交わす感じが、(良い意味で)枯れたおじさんと云う感じで印象的でした。小生も将来は、ああ云う枯れたおじさんになりたいなと思うけれど、たぶんもっと薄汚い感じになってしまい、無理っぽいので諦めます(^^;)
魔性の女「麻美」を演じられた椎名英姫さんも、ミステリアスな痩身の美貌で、繊細そうなのに何処か無表情な、取りつく島のない口ぶりで惑わす好演でした。黒髪の長い瑞々しい雰囲気と、薄汚い畳の部屋に足を投げ出して呆然と電話を待つ様が、徐々に映画の恐怖感を高めていました。
朝焼けや黄昏時の旅先のホテルの薄暗い一室のシーンや、銀座の何処かの地下のバーの掴み所のない古めかしい感じ、後ろ暗い秘密を持ったバレー教室で不具になった元変態教師、浮ついたピアノの旋律が似合う都心の小綺麗なレストランなど、この頃の東京の感じがよく出ている印象的な場面が多かったです。
小生じたいは1999年当時まだ小学生で、横浜からほとんど出たことがありませんでしたので、実際には当時の東京を全く知らないのですが、現在(2020年)とは明確に違いながら、しかしまだ変わっていない風景もあって、その辺りのギャップを愉しみながら拝見できることは、自分が見たことがある街で撮られた映画を観る醍醐味の一つだったりします。
もっとも、見たことがあると云っても、例えば小生は銀座の舗道は、少なくとも3000回以上は歩いておりますけれども、べつに銀座を「知っている」わけではなくて、実際に小生の観察眼では大したものを掬い取れていないことを考慮すると、せいぜい2,3回読んだ荷風の小説や、少なくとも100回以上は読み返した吉行淳之介さんの小説で読んだ「銀座」程度にしか知らないわけで、つまり曖昧な知識を、曖昧な映像に含まれた情報によって上書きする程度のことでしかなく、それほど大それたものではないのかもしれませんが、それでも一度も行ったことのない街と較べると、やはりちょっと気分が違うような気がします。
監督は三池崇史さんです。小生は同監督が同じ年に撮った”Dead or Alive (1999 film)“や、翌2000年の”天国から来た男たち“のファンでもあるので、本作も期待して見始めたのだけど三池監督らしいポップでありながら何処か大らかで一歩引いたような俯瞰的な感性のバランスに優れていて、安心して愉しむことができる良作でした。
1999年あたりの三池監督は非常に多作で、やけにポップな題名のタイトルも多いけれど、小生も未見作が多いので、いずれ拝見してみたいところです。

以下、拙ブログの中の関連作品の記事へのリンクです
天国から来た男たち / 三池崇史監督
青山真治監督『冷たい血』

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