暴走パニック大激突 深作欣二監督

1976

皆さん今日は。ようやく少しは秋めいてきましたが、如何お過ごしでしょうか。小生は、“暴走パニック大激突 Violent Panic: The Big Crash”という深作欣二監督の1976年の作品を拝見しました。深作監督は1974年から’76年までの僅か3年の間に、名高い”仁義なき戦い“のシリーズを含め、10本もの監督作があり、凄まじいペースで撮られている時期の作品にあたります。

本作は、猥雑で生々しいバーのシーン。銀行強盗の部屋で女に豆を煮させている。にわかに熱気を帯びるNHKのアナウンサーと、最初から最後まで、とことん無能の穀潰しとして描かれる警官たち。車が好きなだけの弱気で繊細な若者。奇妙な喋り方の猫背の男が、惚れた女の写真を大切に飾っている、マネキンだらけの部屋。これらバラバラのパズルの断片は、いかにも乱雑で捉えどころがないけれど、大阪やその周辺の街の雑多な雰囲気を、大きなスケールで捉えていて、深作監督の余裕たっぷりで軽やかな演出により、それらの断片が、心地よく都会の断片の様相を奏でるような作品でした。

女性が路上で立ち竦み、去ってゆく車があり、車が不意に止まって、車のドアが開いて、乗れよ、と男が云うだけのシーンなどを拝見すると、語りすぎないクールさというか、映画の颯爽としたリズムと、ひとつの場面に重きを置きすぎない軽やかさというものが、かえって重厚な雰囲気を形作っており、そうしたところが深作映画の魅力なのかもしれないなと思いました。

主演はTsunehiko Wataseさんで、明日をも知れぬ身分の捨て鉢さを、昏い瞳に漂わせた好演です。真っ黒なジャケットを着込んで、煙草を吸いながら、空港に現れるショットの寂寥感は、ちょっと他の役者には出せない味だと思います。小生が、真似して黒いジャケットを着こんでみても、あれほどの雰囲気は出ないから、単なる陰気な人になってしまうな・・・なんてことを思ったり。

窃盗癖があり、強盗の部屋で「豆を煮るのがうまい」元写真モデルを演じたのはMiki Sugimotoさんで、弱々しく、すぐに道端に寝転んで轢かれようとしたり、あるいは薬を大量に飲んで自殺しようとしたり、そうした八方破れな生き心地の悪さを、どこかコミカルな雰囲気さえ漂わせながら云い尽くす好演です。自暴自棄になって一人でバーで飲み過ぎて、幽霊のように場末のホテルに去ってゆく後ろ姿の、疲れ果てた雰囲気が、とても可憐でした。

カー・アクションも、それなりに迫力があり、力の抜けた莫迦々々しいタッチで、楽しめました。何故かNHKの記者が最後にちょっと「公正な報道」を目指して活躍しようとするのに、けっきょく警官の邪魔ばかりしているシーンが、けっこう皮肉が効いていて笑えました。

CGなんて、なにもない時代の作品だけど、こういう古い映画を眺めていると、最新の映画の迫力とは違った種類の、ある種のスケール感があります。こうした、この時代の作品だけの魅力というものは、監督個人の技量に依るところが大きいし、今、新しい技術で撮ったからといって、もういちど撮れるものでもないので、アップデートされる性質のものではないです。

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