ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

映画

今回、観た作品は2019年のクエンティン・タランティーノ監督の作品です。

クエンティン・タランティーノ監督は、もともとビデオ屋の店員の映画オタクで、就業中もカウンターの裏側でずっとビデオを観ていたようですが、あまりにも映画が好きすぎて映画監督に転身されてしまったようです。1992年にギャング映画『レザボア・ドッグス』でデビューするやいなや、そのあまりにも「ツボを知っている」ことでとても新人とは思えない玄人気質の編集スタイルと、独特のポップな感覚の両立によって、すぐさま人気を博し、その後1994年の『パルプ・フィクション』の圧倒的成功によって、ハリウッドの一流監督として不動の地位を確立し、その後はマイペースでマニアックな映画オタクっぽい作品を次々に発表してきました。好きこそものの上手なれとか云うけれど、実際に好きな物事で成功する人は本当に少ないんですね。タランティーノ監督は、自分が好きな分野で何の実績もない地点からはじめて、ほんとうに成功してしまうという、けっこう珍しい成功パターンを辿られた方です。

まさにアメリカン・ドリームを絵に描いたようなタランティーノ監督ですが、リチャード・フライシャー監督ブライアン・デ・パルマ監督の影響を受けた画面分割などのマニアックな手法や、サム・ペキンパー監督の影響を受けた苛烈な血飛沫や、しつこいネチネチした活劇描写、はたまた、ジム・ジャームッシュ監督の影響を受けた、わざわざ、どうでもいいような会話をわざと長回しで撮ることで映画のリズムを遅れさせ、そのことでかえってダイナミックな緩急を生じさせるという、いかにも映画オタクっぽい、イヤミっぽいほどの気の利かせぶりの過剰さが、その作品の特徴となっています。そのしつこさは、ちょっと他の人には真似できないもので、いくらなんでもやりすぎたなという作品が、「ジャッキー・ブラウン」や、「キル・ビルvol.1/2」などといった作品になっています。

しかし、タランティーノも、いまや引退を口にするほどのベテランになって参りました。じつは、本作(2019年作)の次の作品での引退を表明しています。彼の言葉が正しければ最後から二番目の作品である本作も、先に挙げた3作と比べると、とても落ち着いていて、のんびりしています。ひとつの画面に何もかもを詰め込もうとする、あの若き日のタランティーノの狂的な面倒くささが、本作では影を潜めています。それは少し寂しい気もするけれど、その分、じっくり、画面の魅力的な風景を愉しむことができました。主演はレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピット。たぶん人類最強のペアのひとつだと思います。強すぎる二人の絵を、ゆっくりと堪能しました。そうして我慢に我慢を重ねた落ち着いた演出の後で、我慢できなくなって飛行機の中で突然画面を分けてみたりするのですが、やっぱり落ち着きとベテランの優しさが滲み出ている画面になっていました。

本作は、フェイク・ドキュメンタリーとでも云えばいいのか、史実を微妙に参照しつつ、じつは全く史実と無関係な内容を描いています。その現実離れした脚本の中には、タランティーノが愛した映画のヒーローたちの、勧善懲悪がまかり通る世界への無邪気な興味が充ちています。もしも世界にヒーローがいたら、とタランティーノは考える。昔、昔、ハリウッドで・・・悪者を・・・火炎放射器で・・・

プールから立ち上がって納屋に行くまでの画面は、普通で爽やかで悪くない絵なのに、そこで、やっぱり我慢できずに火炎放射器とか出してしまうあたり、自分自身の圧倒的なしつこさと面倒くささについて、まったく自覚がないように思えます。

レオナルド・ディカプリオに火炎放射器を持たせて嬉々としているような精神の持ち主が、あと一本だけで、このまま静かに引退するようには思えないんですが、本当に引退してしまうのでしょうか。やっぱり寂しいですね。

宮崎駿監督みたいに、引退宣言を何度も繰り返してくれたら良いのですが・・・。

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