ロバート・アルドリッチ監督『北国の帝王』

1973

みなさんこんにちは。先日は、ロバート・アルドリッチ監督の1973年の作品”Emperor of the North Pole“を拝見しました。本作は、アメリカの大恐慌時代を背景に、職も無く全土を転々とする”ホーボー”(浮浪者)は命を懸けて無賃乗車するのだが、かれらを殺してでも捕まえようとする車掌のシャックと、ホーボーたちの中でも最も度胸があり、最も仲間の尊敬を得ているエース”ナンバーワン”との戦いを描いた作品です。

もともとはサム・ペキンパー監督が撮る予定で企画された本作。この二人、現代アメリカを代表する一流の2人ですが、両者ともとても力強い作風で、似ているようで、じつはまったく違うのですが、うまく言葉にできないけれど、あえて書くならばサム・ペキンパー監督のほうが、ややスタイリッシュでカリスマティックで前衛的であり、ひとつのディティールの正確さを鋭敏な感性で追及するような作風で、対して、本作のロバート・アルドリッチ監督は、もっと叙情的で細かな説得力のある、作品全体のスケール感のようなものを悠々と追及するような作風だと思います。(個人の感想です)

魯迅孔乙己という有名な小説のなかに、「本を盗むことは学者として当然のことである」みたいなことを子ども相手に切々と説いている、アル中みたいなおじいさんが出てくるけれど、本作においてホーボーの無賃乗車も、何か生きるための知恵という以上に、ひとつのその人々の思想、哲学、政治的主張ないし宗教のような領域にまで、無賃乗車ということが高まっていると思います。

むろん無賃乗車する浮浪者たちを憎々しく思う車掌は実際にいるかもしれないとしても、発見次第、殴打のうえ連結器の隙間から走行中の線路に落として轢殺する車掌は(たぶん)現実にはいないので、本作はアルドリッチ一流のファンタジーなわけだけど、奇妙に個人的でありながらものすごく正統的で、まっすぐなアルドリッチ監督の心意気のようなものが隅々まで横溢していて、じつにすばらしい作品でした。

ナンバーワンと、若くて捻くれたホーボー「シガレット」の心の交流も見どころで、とりわけクライマックスは、じつにすばらしい。ネタバレを避けて詳説はしないが、電車が去ってゆくショットなのだけど、似たような構図のラストになるヴィム・ヴェンダース監督の「都会のアリス」の叙情たっぷりの静寂とは違って、ただわけもわからず叫びまくっているだけみたいなナンバーワンの薄汚い言葉遣いを、小生は決して尊敬したりはしないけれど、しかし心のどこかで小生は、結局こういう生き方しかできるわけがないと気付いている。もう成長することをあきらめる。この程度が小生の生き方の理想だとおもう。

ロバート・アルドリッチ監督の懐の大きなおおらかさ、やさしさ、そうして清々しさみたいなものは、いちど知ってしまうと、ヤミツキになってしまいます。ぜんぶ観たいなと思っています。

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