バトル・ロワイアル 深作欣二監督

2000

Battle Royaleを再見しました。今回は、人生四度目の鑑賞ですが、観れば観るほど、ますます好きになってしまう素晴らしい作品です。最初に見たときは、まだ若かったのですが、人生に疲れ切った現在、見直して、ますますこの映画が好きになりました。傑作という言葉は、その言葉のなかで思考が止まってしまう気がするので、あまり用いることを好まないのですが、本作は、最晩年の深作監督の深い思想が反映された、紛れもない傑作だと思います。
本作において、ショットとショットのあいだに、状況や情感を説明するような静止した文字の挿入が試みられていますが、これは漫画的な表現というよりも寧ろ、サイレント映画の表現の踏襲なのだと思います。チャップリンやキートンなどの超有名作くらしいか見たことがない、ぜんぜん映画に詳しくない小生がこう云えるものでもないけれど、やっぱりあの字幕はぜんぜん漫画っぽくないのですね。もちろん、漫画を映画の格下に観ているわけではありません。小生は青木雄二さんや吾妻ひでおさんの漫画の大ファンです。しかし、あの字幕は漫画のセリフの賑やかさのようなものを一切感じさせず、もっと静かな情感を讃えています。なにか、深作監督は最晩年に至って、映画の黎明の呼吸のようなものを、魂で会得されたように思います。
演者の皆さんが、たいへん魅力的で、主演はTatsuya Fujiwaraさんです。とても表情豊かで、何処か線の細い心持さえも匂わせるようなところは、さすがはKaiji (2009 film)の名優だなと思いました。
ヒロインはAki Maedaさんで、黒髪のショートカットがよく似合って健気で、清潔感があって、恐ろしく可愛かったです。小生は中高とつまらない男子校で、青春というものは存在しなかったので、最初の修学旅行のバスのなかで、前田亜季さんが、手作りクッキーを好きな男の子に持っていくショットを眺めていると、羨ましすぎてショック死しそうになりました。映画のなかの子どもたちよりも先に死んでしまってはいけません。
今は政治家に転身されているTarō Yamamotoさんもマッチョながらどこか蔭のある、やや年を食った「転校生」役で、銃を持つ姿がとても絵になっていました。そういえば一度だけスーツ姿の山本太郎さんと、有楽町の交差点ですれ違いました。普通に歩いていて、ちょっと驚きました。迷惑かもしれないので声はかけていませんが。他にも、ラモス瑠偉さん、木村拓哉さん、安住アナ、菅元総理などといった有名人とすれ違ったことがあるけれど、小生は有名人なんていつも声をかけられて迷惑だろうと思っているので、一度も声をかけたことはありません。
他人の殺害に躊躇いを見せない、ダークな転校生を演じたMasanobu Andoさんも、なにか悪いものが憑依したような怪演。火事のなかの唐突な特殊メイクは、歌舞伎もびっくりの素晴らしく粋な演出で、ああいうシーンに深作監督の偉大なスケール感を感じました。
清廉な影があり、ミステリアスで蠱惑的なChiaki Kuriyamaさんも素晴らしい存在感で、トレーニング・ウェアが非常に艶やかでした。本作の出演がきっかけになって後に、本作の大ファンであるタランティーノ監督のKill Bill: Volume 1にも出演されています。
Ko Shibasakiさんも妖しく微笑んで、隙あらば銃をぶっ放す怪演。世の中の嫌な部分をある程度知っているということで、生きたいと願う気持ちが人一倍つよい少女の孤独感があらわれていました。
教師役のTakeshi Kitanoさんも、さすがの貫禄のある、北野さんにしかできないと思われる名演。娘に「お父さん電話越しでも臭いから息しないで」とひどいことを言われ、前田亜季さんが焼いたクッキーを無表情で頬張る姿は、孤独と狂気が紙一重で沁み込んでいて、浅草の劇場の芸人時代から、すでに無二の存在になっている本作の撮影時まで、人生の酸いも甘いも嚙み分けながら歩んできた北野さんだからこそ、醸し出すことのできる雰囲気のある名演でした。
全員に就いては、とても書けないけれど、他にも現在すっかり有名になられた方も含め、たくさんの魅力的な俳優・女優の皆さんが素晴らしい演技を刻み付けています。
この映画に深く籠められたメッセージは、なによりも反戦・反暴力・反権力だと思います。深作監督はBR法のようなものを、日本政府が平気で作ってしまう光景に、人間の戦争の記憶を重ねています。深作監督は、国家による暴力、個人による暴力の最も寒々しい行使を描きながら、魂の奥底で人間を信じ切っており、また、この社会に希望の光を投げかけたいと、願い続けています。裏腹の皮相は、壮絶な血は、深作監督一流の「愛の言葉」だと思います。
さまざまな流れ者、逸れ者たちの映画を撮りながら、社会の底に光を宛て続けた彼が最晩年に願ったものは、この映画の根に熱く滾っている、すべての相容れない若者たちへの希望の心は、クライマックスで深く帽子を被って、雑踏のあわいを駆け抜けてゆく二人の若者を包み込む朝の光の爽やかさとともに、小生の心の中にいつまでも暖かく、静かに輝き続けています。

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