大林宣彦監督の『時をかける少女』は、下駄を履いて石段を歩くような古風な街を舞台に、タイムトラベルのSF劇が繰り広げられる作品です。大林宣彦監督の落ち着いた語り口が、とても魅力的な作品でした。
職人風というよりも、寧ろ童心に充ちた大林宣彦監督の、融通無碍な特殊効果がとても魅力的でした。
たとえば、夜の道を歩くとき、光原から虹色が出るように、わざと調整したり、
かなり不自然なタイミングでミュージカル映画になったり、
菜の花の色味を増すために、周囲を不意にモノクロにしたり、
時計の音を映したり、手描き風の効果を入れたり・・・
全編で、そうした遊びが縦横無尽に活躍する、同監督のカルト映画の傑作『ハウス』と較べると、だいぶ控え目ですが、そういう遊びの気持ちはとても好ましいものでした。
クライマックス付近では、自分が、いるのかいないのかわからない感じになります。時の流れの狭間に、観ている自分が、迷い込んだような気持ちになります。
古い寺町と、古風な学校という舞台の落ち着きと、そうした遊び心を交える監督の自由さが、素晴らしいバランス感覚で、観る者の心を惹きつけるように思いました。
主演は原田知世さん。清楚で、爽やかな好演です。エンドロールでは、不意に彼女が歌い出すため、アイドルのPVみたいになりますが、そのエンドロールの構成まで含めて、成り立っている作品という感じが強くあります。
大林宣彦監督が、そんなにSFの筋書きの整合性とか、面白い展開とかいうのには強く拘っておらず、寧ろそこに生きる人々の会話や、交わす視線や、微笑み、悲しみの表情一つ一つの意味、一つ一つの味わいに重きを置いていることが、本編と同じくらいの魅力のある、素晴らしいエンドロールを眺めていると、しみじみとわかってくるような思いがありました。
原田知世さんの歌声がまた良いものです。とても個性的な魅力のある声だと思います。
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