吉行淳之介さんが愛した銘店「慶楽」の想い出

日記

もう閉店してしまった、有楽町にあった慶楽のカキ油牛肉焼きそばという料理を、ときどき思い出して食べたくなります。海老の入ったスープ餃子と二品、注文して、よく食べていました。広東料理をベースにした、とても個性的な味のお店でしたが、あの味は、他の店では絶対に出せない味で、もう、あの味は記憶のなかにしか存在せず、二度と食べることが叶わないと思うと、ほんとうに寂しいです。
ひとりでも何回も行って、お店のおばさんと街ですれ違うと、会釈していたほどでした。会社の同僚や女の子や、学生時代の旧友など、様々なひとを連れて行ったので、50回ほどは食べに行ったかと思いますが、だいたい6,7年くらいの期間、ときどき行っていたので、特に、多く通っていたということでもないのですね。半年くらい、まったく行っていない時期なんかも、あったと思います。閉店が決まってからは、ひどい行列になってしまい、小生は閉店前最後の訪問については、行列に並ぶ時間の余裕がなくて、諦めたけれど、もっと、たくさん行っておけばよかったと、ひどく後悔したことを憶えています。今でも、後悔しています。
小生が初めにこのお店を知ったきっかけは、小生が好きな小説家、吉行淳之介さんが通っていたお店ということで、お店の存在を知り、まだ営業していることがwebで判ったので、行ってみたことがきっかけでした。吉行淳之介さんは、慶楽から徒歩1分半のところにある帝国ホテルの一室を借りて執筆しながら、午后のすいている時間にふらりとおひとりで訪れて、カキ油牛肉焼きそばと水餃子を注文されていたそうです。はじめて行ってみたとき、もうすでに吉行さんのご訪問から30年の月日が経っていた筈ですが、メニューをめくると、まったく同じ名前のお料理が載っていたので、感動したことを憶えています。
当時は、小生は煙草を吸っていたので、二階がちょうど電車の高架の壁になっていて、電車の揺れを時折、窓の外にがたがた感じながら、ゆったりと紫煙を吹かし、料理の来るのを待ち、そうして、独特の風味のお茶を啜りながら、のんびりと焼きそばを啜り、スープ餃子をひとつひとつ摘まむのが、至福の時間でした。
懐かしい、二度とは来ない、ひとときの想い出です。

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