学生の頃、読んだ本を古本屋で見つけたので、購入し、再読してみました。森達也監督が作っているオウムのドキュメンタリーが、ただオウムという素材を通して、中立的な視線から日本人のメンタリティを描こうとしただけなのにオウムを擁護していると誤解され、テレビ放映が無理になり、ゴールが見えにくい中で暗中模索で、自主制作映画としての制作継続を決め、『A』というドキュメンタリー映画を作り上げてゆく過程の心の動きが、とてもヴィヴィッドに表現されていて、とても面白い本でした。曖昧なもの、意味がまだついていないもの、気がかりだが否応なしに、ねじ伏せてしまうものに対して無自覚でありながら、簡単に大きな意味を持った言葉が力を持ち、社会を規程し、そこから外れてゆく人々への視線を持たないままに、既存の社会制度として実体化・常態化してしまうことが、当時の社会の土壌だとすれば、そうした無自覚の排他主義、自分に理解できないものに簡単に蓋をする主義のようなものは令和になった現在も何ら変わることもなく、人々の意識の底に潜んでいて、そうしたものに無自覚である人々が作る社会の危険性は、当然のことながらオウムの幹部を処刑したことで何ら改善されるものではありません。この社会に生きることは、相変わらず困難を極めます。社会の常識が内包する不寛容さと、その帰着としての社会そのものの脆弱性に疑問を持たれている方々は、ぜひ本書を読んでいただきたいなと思います。今回、昔、読んだな、と思いながら再読ということで軽い気持ちで読み始めてみましたが、思ったよりも面白く、昔、読んだ本でも当然のことながら、デティールは忘れているので新たな発見がとても多く、昔、読んだ本でも、好きな本であれば、どんどん再読しても良いかなと思います。
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