つげ義春日記

2020

つげ義春さんの傑作「ねじ式」を先日、再読した折、先生の日記が是非とも読みたくなって購入しました。カメラいじりや、喫茶店の静かな空間を好むつげ先生ならではの繊細な感覚や、対人関係や世相への鋭利な視線と批判が、全編に横溢した素晴らしい一冊になっていました。
慾を云えば、ずっと机上に措いて繰り返し手に取って居られる荷風の断腸亭日常みたいなヴォリュームがあったら、尚良かったですが。併し、なかなか読めない貴重な一冊だと思います。
鈴木清順(映画監督)と一緒にサイン会を開いて、一日中待って、一人も来なかったというエピソードに驚愕しました。お二人とも20世紀の日本の藝術界の第一人者であり、20世紀の日本のそれぞれのジャンルを代表するお二人だと思いますが。べつに苦言を呈するわけではないのですが日本人はスポーツやお笑い番組にはただちに興味を持っても、まだ世間からの評価が定まっていない新興の芸術には、あまり興味が持てないのかもしれません。
日本だけの話ではなくて、譬えばフランスでも、あのジャン・コクトーでさえ晩年は、フランソワ・トリュフォーに資金援助を受けるまでは、映画の新作を撮る資金を準備することができませんでした。ゴッホも生涯、拳銃自殺を遂げるまで殆ど絵が売れず、非常に貧乏だったようですし、ジャック・ベッケル監督の映画「モンパルナスの灯」に描かれたモディリアーニの窮状も有名な話です。
芸術家に、厳しい世の中です。ましてや小生のような藝術家でもなく、実務家でもなく、努力家でもないダメ人間は、どうやって生きてゆけば良いのでしょうか。もはや生きるのを諦めてつげ義春さんの日記でも捲りながら、ぼんやりと余生をやり過ごすしかないのでしょうか。
もっとも、「サイン会に誰も来なかった」エピソードから孤独な藝術家の窮状を連想しましたが、つげ義春さんの日記には、それほどお金がないという記述は目立っていません。寧ろ文庫本ブームで、けっこう余裕があったような部分も書き残しています。才能がある人は羨ましいです。才能がある人は・・・

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