今回は漫画アクションに連載されていた全2巻のエッセイ風の作品『日本をゆっくり走ってみたよ~あの娘のために日本一周~』(吉本浩二さん作)
を拝読しました。作者の吉本さんはプロの漫画家として成功したが、36歳で漫画の仕事がいったん中断となり、半ば失意のなかで、「好きな女性に告白するために日本を一周する」ということを思いつきます。客観的に眺めると「女性に告白するために日本を一周する」という論理は、意味がよくわからないのですが、そうしたことの判らなさに、吉本さんがどれほど自覚的であるのか距離感が掴めないところが、この漫画の面白いところだと思います。旅中、話好きのveteran boresにしょっちゅうつきまとわれ、いちいち対応し、断ることができない小心者としての悩みが、そこかしこで疲弊を催させる道程の、徒労感みたいなものがひしひしと伝わってきて、心に迫るものがありました。いちばん笑ったのはフェリーのなかで、「家嫌いの上司が帰るまで、家に帰れない」と他人に嘆かれる場面です。嘆きの内容がじつにリアルで救いのないものがありました。現実のデティールの救いのなさというものはけっこう身を切るようにつらいものがあるし、そういう感覚を丁寧に描く吉本さんのタッチは親密で、心地よいものでした。
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