We Love You Tecca 2 / Lil Tecca

2021

夏の間ずっと楽しみにしていたリル・テッカのニュー・アルバムWe Love You Tecca 2が8/27にようやくリリースされたので、爾来、毎日”Repeat It”しています。

8/6と書いてあるこのtweetを見て、8/6に発売だと思って、8/7以降10回くらい検索したのだけども見つからないので、日本だけは、まだ遅いのかななんて思っていました。

実際のところは、この7/23のtweetは先行シングルを予告したもので、8/27になると無事に日本でも聴けるようになり、それから毎日ずっと、このアルバムを聴いています。

1曲目”Money On Me”は浮遊感のある、ちょっとスローなシンセサイザーと、細かく刻むリズムワークと、繊細さと軽妙さを併せ持ったLil Teccaのヴォーカルが非常に魅力的な曲です。とても内省的で孤独な気配を持ちながら、何処かでさらりと流して見せる、Lil Teccaの微妙な歌い回しが堪能できる逸品だと思います。

Lil Tecca – Money On Me (Directed by Cole Bennett)

2曲目”Repeat It”はGunnaとのfeaturingのtitleです。とても印象的なリフから始まり、アルペジオが常に後ろで細かく流れ、少し座りの悪い浮遊感のあるトラックに重なる、Lil Teccaのメロディアスなフロウが心地よい曲です。サビのところで細かく単音で刻まれるベースの音も心地よいです。低音がとても軽い、広い空間の中に、音数の少ないベースがかえって印象的に響いています。中音域のリフはとても音数が多いから、その辺りの違和感が、不思議なグルーヴを生み出し、けっこう病みつきになる曲です。

Lil Tecca – REPEAT IT ft. Gunna (Official Video)

3曲目”Never Left”は少しルーズでメロウなトラックに、”We love you tecca”というお馴染みの女性の声が被さって始まります。この言葉はアルバムのタイトルにもなっており、繊細でクールなLil Teccaは、そう云うポジティブな言葉でも嫌味を感じさせません。
この”Never Left”という曲は、旅の途中の、少し中弛みした1日のような響きのある曲です。少しの疲れと、少しの期待が入り混じった複雑な心境を、Lil Teccaはメロウな雰囲気で謳い上げています。
4曲目”Caution”は、中音域〜高音域に響かせる幻想的なシンセサイザーと、やや低音にもたれるLil Teccaのフロウから、一気に中音域〜高音域に駆け上がる彼のフロウの、抜群のメロディーとフロウのセンスが堪能できる曲です。楽譜にすると、意外と単純なのかもしれないけれど、じっと耳を澄まして聴いていると、溜息をつきたくなるほど融通無碍な歌の世界を心ゆくまで堪能することが出来る、Lil Teccaのヴォーカルの音域が目まぐるしく遷り変わる美しい曲です。

5曲目”SEASIDE”でも、”We love you tecca”という謎のお馴染みの女性の声で始まります。Lil Tecca自身の繊細さを、ややパロディ的に扱う演出なのかもしれません。この曲は、Iann Diorとのfeaturingで、少しピコピコしたアルペジオのちょっと間抜けなリフレインと、渋いベースラインと、しっかりと落ち着いてみせるLil Teccaの、ややスローなヴォーカルのギャップが、とても面白い曲です。Iann Diorの声もとてもセクシーで華やかです。

6曲目”No Discussion”は5曲目”Seaside”から、トラックの雰囲気が繋がっている曲で、5曲目のピコピコ音のアルペジオのリフを、マッドに処理し直して、アコギの音も織り交ぜて、トラック全体にリヴァーヴをかけて、それから、次の曲以降もですが、やっぱり”We love you tecca”の声から始まるのが可愛いです。あと、よくわからないエコーみたいなのを掛けていて、ダサカッコいいというか、Lil Teccaがやるから、かっこいいですね。けっこう遊び心が強い曲で、5曲目とセットで、永遠に聴いていられる曲です。

7曲目”You Don’t Need Me No More”は切羽詰まったようなタイトルも相まって、怒りや焦り、寂しさのようなものを織り交ぜた曲だと思います。本作をとおしてですが、ベース音が相当軽くて、少しドリーミーで浮遊感があるアレンジがとても良い感じです。

8曲目”Fee”は、これまでの曲の中で最もシンプルなアレンジで、Lil Teccaの少し孤独感のある繊細なヴォーカルの魅力がじっくりと堪能できる曲です。

9曲目”Choppa Shoot The Loudest”はTrippie Reddとのfeaturingです。Trippie Reddの艶のある力強い、のびやかなヴォーカルと、Lil Teccaの繊細で孤独感のあるヴォーカルのfeaturingの相性は最高だと思います。シンセサイザーを長くゆったりと弾く、何処か1980年代のSF映画を彷彿させるような個性的でちょっとノスタルジックなアレンジの中に、Trippie Reddの呪術的な声のリフレインが、とても印象的な曲です。魅力的な曲が多い本作の中でも白眉と云える作品に仕上がっています。

10曲目”Did That”は9曲目から一転して、Lil Teccaの密度の高い息つく間もないようなフロウに焦点を当てた曲です。メロディーのアイディアを矢継ぎ早に生み出すLil Teccaのヴォーカルのセンスが秀逸な曲です。

11曲目”About You”はカナダのアーティストNavとのfeaturingです。どこか落ち着いた曲調と、エコーを効かせたアレンジが、まるで雨の夜に路地を一人で去ってゆくようなイメージを想起させます。Navとのハモリや掛け合いも心地よく、寂しい都会の夜のイメージが重層的に拡がってゆきます。このアルバムの中では、もしかしたら本曲は、隠れた名曲と云えるかもしれません。

12曲目”Lot of Me”はLil Teccaのユーモラスなヴォーカルが堪能できる曲です。lotteryとlot of meで脚韻を踏んでおり、自分の中にはまだまだ残り物の金塊が沢山あるよと云っているような、60年前の”Beatles for sale”の皮肉を彷彿とさせる愉しい曲です。

13曲目”Investigation”はトラックの中音から高音のあたりに、細かいエコーの効いた装飾音を幾つも重ねていて、透き通るベールに包まれたような、奇妙な落ち着きを感じさせるアレンジが素敵な一曲です。

14曲目”You Gotta Go Do Better”、は少し落ち着いたメロウな曲です。本作の各曲で見せた、トラックの遊び心を、いくつか重層的に組み合わせて、入り組んだ心の様相を表現して見せます。

15曲目”Bank Teller”はLil Yachtyとのfeaturingです。リフのメロディー・ラインとヴォーカルのメロディー・ラインが一部、同じで、倍音のように響いている重厚な曲です。リフとヴォーカルのメロディーが重なるところが、少し滑稽なような、どこか疲れを云い含めるような、長い人生の悲哀を感じさせるような、綿々と続く日常に対峙した、ブルージーなムードが漂う一曲です。

16曲目”Nada”は,8曲目”Fee”10曲目”Did That”のように、比較的シンプルなアレンジで、Lil Teccaのヴォーカルの魅力をゆっくりと堪能できる曲です。決して力強いわけではないのですが、フロウのアイディアが豊富で、幾つものメロディーを感じさせる心地よい、ずっと聴いていたいと思わせてくれる、Lil Teccaの融通無碍なヴォーカルが魅力的です。

17曲目”My Side”は、やや低音にルーズに凭れる冒頭のヴォーカルの雰囲気から、やや低音で細かくメロディーを重ね、そこから不意に中音域〜高音域へするりと走ってゆくLil Teccaの素晴らしいヴォーカルと、やや手厚い中音域のトラック・ワークのナイーヴな質感の重なり合う瞬間の美しさを堪能できる曲です。小品ながら名曲だと思います。こういう曲を聴くと、ほんとうにLil Tecccaは歌が巧いなと、しみじみと思います。

18曲目”Whatever”は某ギャラガー兄弟の名曲を連想しがちなタイトルですが、そのタイトルから想像がつかないほど、遊び心が強い、ちょっとドラッギーな曲です。聴いていただけるとわかるのですが、トラックのリズム感がちょっと特殊で、目眩のするような雰囲気から始まります。本作の他の曲とはちょっと趣向が違う曲で、少し狂的な、偏執的な、とでも云うのでしょうか。そうしてトラックの最終部で不意に足場が外れて落下するような感覚。小生リズム感が皆無なので、リズムがどうなっているのか、さっぱりわからないけれど、とても印象的な、面白い1曲です。

19曲目”Shooters”はオルゴールみたいなリフで始まりますが、その後に聴こえてくる音数の少ない空間が広いベース音が始まると、少しマッドな質感に様変わりして、夢と現の中で飛び交う意識を一つに纏める苦悩を伴う一品に仕上がっています。

20曲目”Everywhere I Go”はLil Teccaの親密で飾り気のないヴォーカルが、シンプルで心地よいアレンジでゆっくりと愉しめる曲です。このアルバム最後の曲となっています。

以上、全20曲ですが、Lil Teccaの魅力が詰まった一枚になっていると思います。全体的にベースの重低音が軽めで音数も少なく、空間を広く意識した、風通しの良い世界観になっていて、聴く人によって、また、聴く際の気分によって、様々な表情を見せてくれそうなアルバムです。小生は、余生をとおして、本作を長く愉しみたいなと思っています。皆さんも機会があれば、ぜひ聴いてみてください。

コメント

Copied title and URL