大瀧詠一さん ”A Long Vacation”

1981

今日は大瀧詠一さんの1981年のアルバム”A Long Vacation“を聴いています。大瀧詠一さんははっぴいえんどの元メンバーで、ソロになってからも多くのアルバムを発表されています。

本作は、作曲は大瀧詠一さん本人が担当されていて、歌詞はすべて、同じくはっぴいえんどの元メンバーの松本隆さんが担当されています。

冒頭を飾る”君は天然色”はオーケストラのリハーサル風景の音像から始まり、のびやかなメロディーと、繊細な歌詞が素晴らしい曲です。途中でパーカッションが優雅に扱われ、ドラムスのオーケストレーションがとても美しい一曲です。初期のビートルズを思わせるシンプルなギターの間奏もイイ感じです。

[Official] 大滝詠一「君は天然色」Music Video (40th Anniversary Version)

2曲目”Velvet Motel”はアコースティック・ギターの音から始まるスローなバラードですが、メロディーの音域が上下に広くて、初期のビーチ・ボーイズを彷彿とさせるような美しいファルセットを堪能できる名曲です。女の子のヴォーカルと一文字ずつ、一つの歌詞を交代で謳うという、恐ろしい試みがなされているのですが、全く違和感がなくて素晴らしいです。大瀧詠一さんにしか出来ない閑雅なアレンジだと思います。”からっぽな瞳をしてる”という歌詞があるのですが、その言葉の響きがじつに美しく、松本隆さんの言葉の選び方の素晴らしさがわかる箇所だと思います。

3曲目”カナリア諸島にて“は、まろやかな音色のエレキギターが優しく、四拍目のリズムをシンプルに切る前奏は、初期のビーチ・ボーイズを思わせるアレンジで、若い頃にビーチ・ボーイズを聴いた時間の方が、同世代の女の子と話した全ての時間を合わせたよりも100万倍も長いという、不幸な生い立ちの小生としては、もうこの冒頭5秒くらいで「あ、好きです」となってしまいます。(チョロい)

サビのコードワークを調べると、augコード(オーギュメント・コード)(完全5度を半音上げることで、構成音が半音3つずつ離れているコード)をアクセントに加えたシンプルな構成になっています。

4曲目”Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語”はビートルズ中期のポール・マッカトニー作の「ちょっと変な曲」を彷彿とさせる遊び心がある曲です。ふざけた雰囲気なのに、松本隆さんの歌詞は、ふざけているのに、随所で美しい日本語の言葉遣いを織り交ぜて、トーンを落ち着かせている感じがして、その辺りの息遣いさすがだと思います。

5曲目”我が心のピンボール”は4曲目に続いて、ちょっとオフビートな遊び心のあるナンバーです。ハードロック調のアレンジです。

6曲目”雨のウェンズデイ“はぐっとトーンを落としたスローでメロウなバラードです。風景がすっと瞼に浮かんでくる松本隆さんの歌詞が素晴らしいです。大瀧詠一さんの繊細なコード選びとメロディーの美しさは精緻を極めており、サビのところで装飾音を変える呼吸はJohn Lennon作曲のビートルズの永遠の名作、”Cry Baby Cry“を彷彿とさせます。

後半の転調も美しく、素晴らしいです。

7曲目“スピーチ・バルーン“は、小生が個人的にこのアルバムの中でいちばん好きな曲です。暗い海のイメージと、曲の途中での焦りの感情、思いが伝わらないもどかしさ、そうして曲の最後の突き放されたような孤独の喪失感。松本隆さんの歌詞の美しさの境地だと思います。

8曲目”恋するカレン”も名曲で、美しいメロから、舞踏的なサビへの華やかさが、ゆったりと堪能できる名曲です。ファルセットまでいかない中音〜高音域の曲だけど、大瀧詠一さんの優しい声の美しさが際立っています。さっきから美しいと名曲しか書いていませんが、頭の出来が小学生レベルのダメ人間なので、そろそろ語彙が限界です(笑)

9曲目は”Fun x 4″ですが、ビーチ・ボーイズの名曲”Fun Fun Fun“のパロディ・ソングです。もちろん細部には大瀧詠一さんのオリジナルの魅力が詰まっていますが、ビーチ・ボーイズのファンの方々なら、余計に愉しい曲だと思います。曲の終わりにThe Beach Boysの”Fun Fun Fun”のサンプリング的な引用が為されています。The Beach Boysのファンの小生にとっては、ちょっと嬉しい演出です。

10曲目”さらばシベリア鉄道”は、このアルバムに収録されている他の曲とはちょっと毛色が違う曲で、打ち込み風のリズムがちょっと古風で、寂しくて残酷な歌詞で、ちょっと突き放すような不思議な曲です。転調した後は音数が増えて少し華やぐのですが、華やかさにケレン味が強くあり、吹雪の寒々しさを思わせるようなアレンジになっています。

また、本作の美しいジャケット・デザインは永井博さんの手による絵画で、少しの郷愁と、寂しさを讃えた、忘れられないデザインになっています。日本語のポップソングの限りない可能性の拡がりを感じさせてくれる、素晴らしい作品だと思います。皆さんも機会があれば、ぜひ聴いてみてください。

コメント

Copied title and URL