青春の殺人者 長谷川和彦監督

1976

今回は長谷川和彦監督の1976年の作品『青春の殺人者』を拝見しました。空港がオープンしたばかりの成田の田舎の地に、長年、車の整備工場を営んでいた父から新しいバーや車を宛がわれる息子が、軽薄な女性関係を咎められ、それらを取り上げられたり、取り上げられそうになっているうちに、「あとから取り上げるなら最初からくれるな」と不満を募らせ、やがてスイカの甘い汁の滴り落ちる真夏の真っ暗なキッチンで、それらの鬱屈した感情は刃物によって片付けられることになります。
車の整備工場は千葉の海沿いにあり、薄汚れた田舎の閉塞感と潮風に錆びついた風物の物悲しさを漂わせており、また、田園の真ん中に突如として現れたようなバーも、なにか新しい日々や若い騒々しさの気配というよりも寧ろ、土地の柵や暗い運命を仄めかしています。原作は中上健次さんで、中上さんのそういう土着的な言葉にできないものを描く視点を、長谷川監督はうまく映像に汲み取っていると思います。ちなみに小生は、原作を未読なので、いつか読んでみたいです(^^;)
全体的にヌーヴェルヴァーグを少し彷彿とさせるような、好い意味で軽みのある、型に捉われないのびのびとした雰囲気を、とても魅力的に感じました。
殺人のシーンなどは、普通の感覚よりも、かなり間延びした感じです。実際の現場は一瞬だけど心の中の葛藤や、心の動きの隘路をひとつひとつ画面に反映しているように思いました。その分、映画のリズムは一瞬、遅くなるけれど、その時にクローズアップさせたものを丁寧に画面に描いてゆく、そういうじっくりと落ち着いた監督の感性が、本作が処女作とは思えないほど堂々としていて驚きました。
また、「主人公たちの学生時代の自主製作映画」という設定のベルイマン風の十字架に吊るされた人々をモノクロームで映す挿入映像なども、青春の心の底のない暗さを淡々と描いていてとても印象的でした。
出演は水谷豊さんで、刃物を抱えたあとも妙に淡々として感情を押し殺してしゃべったり、車を運転したりする表情に、不安そうな焦燥が微かに重なってゆく様、そうしてそのような感情が次第に自棄になってゆく様が印象的でした。ドラマ『相棒』での知的で落ち着いた雰囲気とはだいぶ印象が違い、もっと泥臭くて捨て鉢な雰囲気の、若々しい好演でした。
美しいヒロインを演じたのは原田美枝子さんです。少し声が低く情感の籠ったような雰囲気を、とても魅力的に感じました。
皆さんも機会があれば是非ご覧になってみてください。

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