今回はジョニー・トー監督の2005年の作品、Electionを拝見しました。ジョニー・トー監督は、裏社会に生きる人々を描く作品を、多く監督されている方で、ジャン=ピエール・メルヴィル監督の作品がお好きな方や、北野武監督の作品がお好きな方には、自信を持ってオススメしたい、小生が大好きな、香港フィルム・ノワールの名匠です。演者の中では、Nick Cheungのキレッキレの、鋭い目つきが印象的でした。彼が船の上でスプーンを食べろと云われ、スプーンを砕いて、相手の目を憎しみたっぷりに見据えながら食べ始めるシーンは、なかなか怖かったです。
本作では、黒社会の重要なアイテムである「バトン」の継承を巡るイザコザを軸に物語が展開しますが、バトンというのはタロットカードの4つの小アルカナのうちのひとつであり、本作のなかでも時として人の命よりも重い意味を持つアイテムとして扱われており、何か人間の魂の深いところに関わっているアイテムなのかもしれません。
前半で、長老たちが集まってお茶を飲みながら、重要な話をするシーンがあります。中国ではお茶はメインの食事よりも高い場合があり、今でも高級中華料理店に行くと、一つの高いお茶をテーブルの全員で、シェアして何度も何度も飲んだりするようですが、本作でも、お茶ができるとみんな話を中断して、しっかりと自分のカップを握って、一口で飲んで、すぐにコップを返すのですが、物々しい雰囲気と、その機敏な動作とのギャップがとても面白いシーンでした。
男を殺すときは、けっこう逡巡する背景を描くが、女を殺すときは、ほんの一瞬の判断で、迷いがない。そういうドライなところは、けっこうリアルなのではないかと思いました。もちろん、実際にそう云う場面に立ち会った経験はないので、あくまでも想像の範疇で、リアルなのではないかなと思ったと云うだけの話ですが(^^;)
人を箱に入れたまま崖から突き落とすシーンや、何度も何度も頭に岩を打ち付けるシーンなど、残虐なシーンを淡々と描くジョニー・トー監督の演出は、日常と地続きの恐怖を感じさせ、とても怖かったです。美味しそうなシーヴァス・リーガルのグラスの氷の音が聞こえる、オイスター・バーのおっとりとした雰囲気や、閑雅な魚釣りのシーンなどの日常の風景が、一瞬で真っ赤に染まってしまう風景の儚さの中に、ジョニー・トー監督の冷徹で、細やかで、重厚な演出が光る作品でした。
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