ジョニー・トー監督『暗戦 デッドエンド』

1999

今回は、ジョニー・トー監督の1999年の作品”Runnning out of Time“(『暗戦 デッドエンド』)を拝見しました。その言葉だけで思考が止まる気がするので、傑作という言葉をあまり用いたくないけれど、本作は小品ながら、『エグザイル/絆』や『奪命金』や『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』などと併せて、ジョニー・トー監督の絢爛なフィルモグラフィーの中で、小生がもっとも好きな作品のうちの一本に数えられる作品で、紛れもない傑作だと思います。

派手な作りや、奇を衒った演出は何もないのに、極めて充実した作品の出来栄えでもはや職人芸と云っても過言ではなく、本作におけるジョニー・トー監督はフィルム・ノワールの巨匠の一人として、ジャン=ピエール・メルヴィルやハワード・ホークスやオーソン・ウェルズに肩を並べて、些かも劣らない風格を漂わせています。

主演のAndy Lauがとにかくカッコ良くて、レイバンのサングラスが死ぬほど似合っていて、痺れました。(小学生並の感想)

市中のバスで出会うミステリアスな痩身の美女を演じたYuyo Mungの存在感も素晴らしいのひとことで、一瞬の視線の交わし合いに、ジョニー・トー監督一流のタッチで、瑞々しい感情を演出していました。
本作のカメラが街の警察所やカフェの片隅を捉えるとき、その一隅に吹き荒む風は、そこに生きる人々の孤独や心情を捉えながら、画面の隅々に、リアルでアクチュアルな光を投げかけているように思えます。事件を解決した刑事がパンを食べながらカメラに収まるシーン、ボーリング場や地下駐車場での少々コミカルでスピード感溢れる果し合い、それから刑事と犯人のカフェでの束の間の「ランデブー」での短いセリフ回しなどと云ったシーンは、特に印象に残りました。

たぶん、本作には紛れもない「男の友情」が描かれていると思います。若い頃、そうしたものに憧れながらも、何処かで自分を曝け出すということができずに、小生は友情というものとは無縁だったと思います。だからこそ、こういう作品に憧れます。立場も、意見も、過去も未来も超越した、視線と視線の間に溢れる何かが、フィルムに横溢しています。Jamais deux regards ensemble(二つの視線は決して交わらない)(ジャン=リュック・ゴダール「男性・女性」)とかつてジャン=ピエール・レオーは云ったけれど、あのセリフは、友情や愛が存在し得ることの逆説的な反語なのだなと、ゴダール自身の作品や、本作『暗戦 デッドエンド』が、とりもなおさず証明しているような、そんな気がします。

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