未来世紀ブラジル テリー・ギリアム監督

1985
  • 皆さん、今晩は。今回は、1985年の映画Brazilを拝見しました。監督はTerry Gilliamです。邦題は『未来世紀ブラジル』ですが、原題は単に”Brazil”となっており、Less is moreとミースも仰っていますが、小生も原題の方が好きです。
  • 本作は、日本の歌舞伎や、メディア社会や、過剰な管理社会の影響を受けた、色彩過多な独特の世界観がとても魅力的な近未来SFコメディです。
  • 本作の中で描かれるジョージ・オーウェルの1984を思わせるディストピアでは、人々の可能性が奇怪な方向に集約され、そのために誰も得しないのにも関わらず、社会は既にそのように完成されてしまっており、人々は誰もが被害者であると同時に加害者であり、暴力を実行する為政者にもなり得る。
  • このような世界観は過剰なまでにフィクションですが、同時に何処か現代社会の病理を如実に反映しており、だからこそ他人事とは思えない主人公の苦悩、苛立ち、焦燥の心の動きがとてもかなしく、とても面白かったです。
  • 結局のところ小生もいつもこんなふうに訳のわからない世界を生きていて、最後にはこんな風に狂ったり、逃げたりしているうちに訳のわからないまま死んでしまうのかもしれません。あ、もう狂い始めているし、逃げ始めていますが(^^;)そう思うと生きているうちに、自分の姿をちゃんと捉えるのは困難なので、代わりにこういう鋭い視点を持った面白い映画を観られて、とても良かったと思っています。
  • アメリカやイギリスのポピュラー音楽にはちょっと類がない奇妙なコード感が魅力的な、Ary Barrosoが作曲のAquarela do Brasilのオーケストレーションを優雅に絡ませたアレンジのテーマ曲も、非常に素晴らしかったです。この曲の印象というか、この曲の良さを歌いあげるだけの軽い映画、という見方もあり、つまり、映画のタッチが、とても個人的なので、大きなテーマが少しも浮わついておらず、全体的に、(良い意味で)とてもゴタゴタした作品ではあるけれど、話がぜんぜん大きくならないというか、あくまでも一人の男の心の内側に、ぴったりと密着した個人的な映画というところが、この映画の最大の魅力であり、この映画の最良の功労なのだろうと小生は思っています。
  • 主演はJonathan Pryceで、共演にRobert De Niro。ショートカットの美しいヒロインは、既に映画を引退されているKim Greistです。
  • いちど観たら、ちょっと忘れられない、奇怪な作品です。いくら映像の技術が進んでも、この映像の素晴らしい手作り感の味わいは色褪せません。皆さんも機会がありましたら、是非ご覧になってみてください。

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