暗渠の宿 西村賢太さん

2006

先日、作品を読んだばかりでしたので、急逝の報に驚きました。目先の欲望に走り、社会を軽蔑し、その結果、襲われる生きにくさに翻弄される人々の、酒と草臥れた劣等感の匂いを常に漂わせた上辺の薄汚さ、混濁した日常の描写よりも寧ろ、その奥深くにある西村賢太さんの日本語の美しさに心が動く作品でした。私が名前さえ知らなかったような戦前の日本文学に精通している西村さんならではの時代を超越した文体だと思います。自分の人生のなかで、多かれ少なかれ女性の心がわからず悩んだり、疲れたり、自棄になったりした苦い記憶が、彼の飾りのない文体の節々に共鳴し、本書を通して心の痞えが微かに和らぐような心持です。途方もなく汚れ切ったような日常を扱いながら、ほんとうの意味で綺麗で上品な日本語の作品だと思います。改めて西村さんのご冥福をお祈りいたします。

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