『復讐は俺に任せろ』フリッツ・ラング

1953

フリッツ・ラングはオーストリア出身。ドイツで映画監督として成功を収めましたが、ナチスが政権を取ったためユダヤ人のラングは、命が危険になり、アメリカに亡命し、ハリウッドでも引き続き映画を製作しています。
死刑執行人もまた死す』などが有名で、私も大好きな作品ですが、『恐怖省』が私の最も好きな作品です。
『恐怖省』は、私が過去の人生で出会った作品の中でもベスト10に入るくらい、大好きな作品で、非常に藝術的な価値が高い作品だと思います。体制への怒りと、所詮は地層に埋もれた土の中のように不自由な居場所しか持ち得ない人間の無力感への悲しみが、強く感じられる映画です。
本作The Big Heat(邦題:復讐は俺に任せろ)はそんなフリッツ・ラングの1953年の作品で、今回、私は2回目の鑑賞になりますがフリッツ・ラングの名人芸を心ゆくまで堪能しました。
ヒロインのGloria Grahameは若さ特有の底意地の軽さと儚さを湛えた好演。主演のGlenn Fordは一匹狼のような寂しさを崩さない姿勢の中に滲ませる好演でした。
クライマックス付近の、軽みのあるセリフ回しと、弾道と人の影だけを追うカメラの、感情を抑えた演出が素晴らしかったです。感情を込めずに軽く、軽く撮ることでフリッツ・ラングは、一瞬の運命の縺れの悲しさを、場面いっぱいに顕わしています。私が大好きな建築家のミースも”Less is more”という有名な言葉を残していますが、フリッツ・ラングが追求している飾りのない素朴な絵作りの素晴らしさも、何かミースの思想に通底するものがあるように、私には思われました。

コメント

Copied title and URL