青山真治監督のご冥福をお祈りします

日記

『サッド・ヴァケーション』は公開当時、映画館に一人で観に行きました。
ジョニー・サンダースを聴くと、青山監督の作品を思いだすから、しばらく辛くて聞けません。
あの映画は、北九州市を舞台にしています。
小生は北九州市には行ったことがありませんが、横浜に24年ほど住んでいます。
だから、
周縁の港町
中心にはなり得ない場所
物と物の流れる場所、人が通る場所でありながら、
懐かしさを得にくい場所
戻るときに親しみにくい場所
はじめに広い空間があって、
落ち着かない場所。
そんな場所には、憶えがあります。
あの映画で観た北九州市に生きる若者たちの寒々しい心の内側が、とても心に染みました。青山監督の真摯なカメラは、私の育った場所の心の寒さ、血の冷たさ、思いの浅さ、伝える言葉の寡なさに、しっかりと寄り添ってくれました。
ジョニー・サンダースを聴かなくても、横浜の寂れた港の薄ら寒い路地の、公園と隣接する住居地の設計をちょっとミスって出来上がったような暗渠の、人も猫も通りにくい入り組んだコンクリートの矩形の隘路に、ちょっと迷い込んで歩くだけで、青山監督の作品を思い出します。
もっとも、あの映画は普遍的な孤独な若者の心境を謳っていると思うので、あの映画を心に響かせるために、殊更に辺境の港町に住んでいる必要はないと思います。たまたま自分がそうだったので、そうなのかなと思っただけです。
『レイクサイド・マーダーケース』が、いちばん好きな作品です。幸いなことに若い頃にあの映画に出会い、大人たちが誰も信じられなくても、こういう映画があるなら、この世にはまだ希望があると思いました。
先月、『冷たい血』を拝見して、あまりの素晴らしさに、言葉を喪いました。
アントニオーニを彷彿とさせる素晴らしいフーリガンの描写は、無機質な現代社会の暴力の浅さを克明に描き出しており、主人公の男の魂の彷徨の宛てのなさや、若い二人が踊るダンスの悲しさと美しさ、そうしたものがひとつひとつ、心に染みました。
突然の訃報に衝撃を受けました。
素晴らしい映画をありがとうございました。

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