再見です。邦題は『愛のメモリー』というそうですが、一発で憶えられる単純明快で美しい響きの原題”Obsession”と違い、邦題は、とてもじゃないけれど憶えられません。抽象度の大きな二つの言葉を併せているので憶えられないのだとおもいます。それでも何度も読んでも憶えられないのは、小生に何らかの脳の欠落があるせいかもしれません。
デ・パルマ特有の、意識の流れというか、心理的に迫るディティールの素晴らしさは、小生はヒッチコック以上のものがあると思っています。こんなことを書くと、たぶん世界中の全ての映画ファンに怒られると思いますが、少なくとも小生、個人にとってはデ・パルマ特有の、説明不可能なsignatureのようなものが、とても強く響いているのですね。
脚本は、冷静に考えてみると、ちょっと意味がよくわからない部分が多すぎる作品ではありますが、1970年代以前のデ・パルマの作品群は、全体的にカオスでして、意味がわかる作品の方が、寧ろ少ないような気がします。
それよりもデッキに佇む遊覧船の、この世のものとは思えないほど薄気味悪い佇まいや、整然とした屋敷の捉え所のなさや、ナイフや視線への一瞬のカットにデパルマが刻む想いの濃さや、イタリアの入り組んだ街路で愛にならない愛を交わす人々の心のうつろいの、ニュアンス、カラー、乖離、逸脱、そうしてそれらがたどり着かざるを得ない隘路の限りのない悲しみのひとつひとつに、現代を生きる若者ならば誰もが通らざるを得ないリアリティがある。そういうところにデ・パルマの映画の魅力があります。
デ・パルマの映画がなかったら、小生の青春は、もっとずっと孤独だったとおもいます。誰かとわかり合うことは、一切ない日々だったけれど、暗い心の隅に、常にデ・パルマの映画がありました。深く感謝しています。デ・パルマの映画に対しては、ぼくは好きという感情が振り切れて、何か尊さのようなものを感じます。ずっと、ずっと大好きです。
本作に出演されているのは、Cliff_RobertsonとGeneviève Bujoldです。お二人とも、佇まい、演技もさることながら、落ち着いた、地味な色合いの、それでいて優雅なファッションが素晴らしかったです。小生も、いつかCliff Robertsonのようにスーツが似合う男になりたいけれど、たぶんいったん死なないと無理かと思います(^^;)
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