今回は、2018年の東海道新幹線車内殺傷事件の犯人、小島一郎被告と筆者が面会と手紙のやり取りを重ね、執筆された『家族不適応殺』を拝読しました。
インベカヲリ★さんは写真家として、そこに顕われるものを正確に捉えることの難しさを熟知されているからこそ、本書の執筆の際にも観念的に陥ることや、断定的に陥ることを避けて、ただ筆者が感じたもの、観たものを、そのままに著わそうと苦心惨憺されています。そうした真摯な心持が胸に迫る一冊でした。
筆者は小島一郎被告との面会や手紙のやり取りの中で、その心の裡を読み解こうと試みながらも、常に取材者として、対象への距離感を見失うことは決してありません。しかしながら、実際に新幹線の、事件が起こった路線の、同じ時刻の最終電車に乗って、被害者と同じ姿勢で寝転んでみるといった、そこまでやらなくてもいいのにと思ってしまうような取材に、微に入り細を穿つ緻密さで取り組まれていて、その結果、事件の表層のみならず、その奥深くにある現代社会の病理のようなものが、浮き彫りになっています。
肝心なことは、描き出されたその病理が、筆者の独善的な浅い理解や観念によって、押し売りされたものではなくて、一つ一つが、しっかりとした批判眼を持っているインベカヲリ★さんの視線によって正確に捉えられた、じっさいに起こったことの一面であったということです。
被害にあわれた方々のご冥福、ご回復をお祈り申し上げます。
コメント