今回は女池充監督の2004年の作品”Bitter Sweet”を拝見しました。表層での人間関係には表れてこない、深いところで絡まり合い、一人の人間の想いだけでほどくことが不可能になってしまった情の縺れが、見慣れた町の風景のなかに、淡々としたタッチで描かれている佳作でした。一瞬、電車が通り過ぎる場面で焦点をぼかしたり、音声を遠のかせたりする、意識の空白を画面にあらわすような、引き算の演出というか、昨今の映画では何かを表そうとして、要素を足すことが主流のなかで、一歩引いた構えが見られて、そうした演出を自然体で考えることが出来る監督の個性的な感性が面白かったです。林由美香さんが二児のある妻役で好演。残念ながら本作の翌年、急逝されているので、本作は彼女の最晩年の作品の一本ということになってしまいました。蔭のある、痩身の美しい、上品な雰囲気の女優さんです。本作のレンタルDVDのパッケージに拠れば、本作は公開当時、R-18指定の作品でありながら、女性の観客にも人気があったそうですが、やはり彼女のそうした魅力に拠るところが大きいと思います。
コメント