エドワード・ヤン監督の、ながらく幻の映画のようになっていた作品が、このたび4kリストアされたので、日比谷の映画館で鑑賞して参りました。エドワード・ヤン監督の映画は、ここ10年くらい、何度か4Kリストアされてきていて、そのたびに私は映画館に足を運んだが、そんななかでも「恋愛時代」はDVDも絶版で観る術がほとんどないのに4kレストアされておらず、これは観られないまま死ぬのかなと半ば諦めたような様子だったので、今回の再上映はほんとうに嬉しいことでした。
男が纏うダブルのスーツ、女の子が纏う全身真っ黒なタイトなドレスに金のアクセサリー、まだ一般的な公衆電話ボックスなど、1994年という時代を感じさせる台湾の風景が、とても魅力的でした。エドワード・ヤン監督の、熱いパッションを画面に叩きつけるような演出は、深い陰影を湛えた清楚なと画調と裏腹に、人の心の冷たさと、熱さ、寂しさ、他人を求める心の怖ろしさのようなものの振れ幅の大きさが、そのまま画面に映るようで、素晴らしかったです。
とくに、クラブからでた女の子が一回転するシーン、冷房もテレビもない、本と机しかない作家の実験部屋で少ない光源のなかで佇むChen Shiang-chyi演ずるQiqiの横顔などといったシーンは、この宇宙で後にも先にもエドワード・ヤンただ一人にしか撮られない非常に美しいショットで、素晴らしく印象に残るものでした。その作家の実験部屋の壁に、オードリー・ヘプバーンのポスターとともにウディ・アレンのポスターが貼ってありましたが本作はおそらく、エドワード・ヤン監督がウディ・アレンの70年代の作品のような都会風コメディを意識したものなのかもしれません。
都会の片隅でゆきばのない感情を小爆発させながら生きてゆく感情過多な若者一人一人への優しい、護るような視線のやさしさ、彼らの行き先と現在地を、過ぎ去った自らの世代の混乱と重ねて、いくつかの世代の心の同心円を一瞬にしてフィルムのうえで重ねるような、世代を超えたエドワード・ヤン監督の素晴らしい演出がキラリと光る傑作でした。(以下、ネタバレになりますから未見の方は、ご遠慮ください。)クライマックス。エレベーターのボタンを押そうか迷っている男をじっと映すカメラ、何秒かの間合いのあとに広がる扉の前に立ちすくんでいるQiqiの表情・・・たまらなく好きなシーンです。生きているうちに映画館で観られてほんとうによかったです。
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