- Kenta_Nishimura
- 芥川賞受賞当時、中卒の方が受賞されたということで話題になり、小生もそれなりに興味を持って読んだ記憶があるが、今回、購い求めて再読しました。
- 長く続ける気のないバイト先で、フォークリフトの免許を取らされそうになることの経緯や、弁当の種類がバイトの階級によって違うところなど、延々と書き連ねることで、具体的に主人公の心象が浮かぶところがよかったです。若い頃に読んだカミュの「異邦人」でも職場のタオルが濡れていて気持ち悪いという描写があったけれど、存外そういうデティールに人間の気持ちは重なってゆくものかもしれません。
- 本書が出たときはまだ小生も若かったし、当時は当時なりに疲れてはいたものの、今ほどは人生に疲れていなかったので、そんなに共感しなかったのかもしれないけれど、疲れ果てたいま再読すると、主人公が周囲の出来の良い人々に対して抱く反撥心や、相容れないと思う心持の仔細な点について共感できる部分が多くありました。
- 併録されている短編「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」は半日記ふうの作品で、フィクションなのだがノンフィクションふうのタッチが取り入れられており、本人かと思われる中年の小説家が主人公で、編集者との確執や、「殴ってやりたくなるほど嫌いな」作家の珍しい私家本を巡って自身の将来について思案を繰り広げるような異色作ですが、こちらも飾り気のない文体に味があり、なかなか良い作品でした。
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