監督を破産寸前に追い込んだ小味の良作

2002

今日はDavid Cronenberg監督の”2002年の作品”Spider“(邦題:スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする)を拝見しました。デヴィッド・クローネンバーグ監督らしい、dreamyで、抑制の効いたmysteriousな演出を堪能しました。公開当時は、大赤字で監督が破産しかけたそうです。たしかに派手さのない作品でありますから、曖昧なものや小味の利いたものを排斥し、断定的でパンチの効いたものを好む傾向がある大衆に対しては、appealに乏しいかもしれず、興行的に振るわないのは判らなくもないですが、作品としては、なかなか素晴らしかったと思います。

田舎の恐ろしいような静寂。橋の下、安酒場、陰気な娼家。テーブル一枚、窓一枚、壁一枚、階段ひとつしかないような雰囲気の小さなアパートメント。そうして心に傷を負った少年・・・。現実と回想、筆記により呼び覚まされる世界、他人のなかに重なるイメージなど、静かなタッチのなかに奔放に交錯させる構成で、地味でありながら、まさに映画でしか撮れない表現(小説でも絵画でも再現不可能な演出)に充ち充ちていて、緻密な構成のなかにそれらの演出の妙味が際立っていました。

撮影監督はPeter Suschitzkyで、小生が大好きなロック・オペラ・ミュージカル映画の永遠の名品”The Rocky Horror Picture Show“や、スターウォーズの初期三部作の第二作にあたるThe Empire Strikes Backなど、錚錚たる傑作の数々で撮影を担当されており、また、彼はクローネンバーグ監督の他作品を多く担当されているveteranでもありまして、監督のとの息もぴったりと合っていたようで、まるで、その場に留まる濃密な空気の重さまで伝わってくるような、深みのある色彩感覚が素晴らしかったです。

痩身の陰気な男の主人公”Spider”を演じたのはRalph Fiennesで、冒頭で慌ただしく駆け回る人々のあわいに、悠々とボロボロの服を纏って立ち竦み、儚げに佇んでいる場面の、彼の素晴らしい存在感を拝見するだけで、一気にこの映画に引き込まれました。

少年時代の”Spider”の愛情と憧れを一身に引き受けながら、暗い運命の渦に吸い込まれてしまった、健気で美しい母親を演じたのはMiranda Richardsonで、疲労感と倦怠感を仄かに背負いながら、清楚な可憐さを多分に匂わせる優しさに充ちた演技で、素晴らしかったです。

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