学校へ行けない僕と9人の先生 棚園正一さん

2015

今回、読んだ棚園正一さんの漫画「学校へ行けない僕と9人の先生」は、一人の少年の繊細で傷つきやすい世界観を、自伝的に丁寧に描いた作品で、ほんとうに素晴らしかったです。その人にしか見えない世界や違和感、感情を、丁寧に、真摯に伝える姿勢は、ニコラ・フィリベール監督の傑作「すべての些細な事柄」を思わせる繊細さでした。漫画好きだった少年が、鳥山明さんの原画を初めて見るシーンが、とても感動的で、絵は白黒なのに、目の前にカラーが浮かび上がるような、心の籠もった暖かい1ページでした。小生も「ドラゴンボール」を子供の頃、愛読していましたが、中学生になってからは再読することもなく、青年時代にはアニメ映画なども特に観なかったので、久々に読みたくなりました。小生も子供の頃は様々な感情があった筈ですが、すべて忘れてしまいました。その頃の感情や、細やかな世間や大人たちへの違和感を、ここまで緻密に思い出し、描くことのできる人がいると云うことに、ちょっと驚きました。現在の小生は、かなり暗い性格の人生を送っていますが、子供の頃の小生にも、たぶん本作の作者と同じくらい繊細な部分がどこかにあって、(と、書くのは、たいへん烏滸がましいかもしれませんが、「何処かに」あったということです。(^^;))その後遺症を引き摺っているだけだと思います。「あの頃の生活を、無傷で送れた人なんて、一人もいない」と何かのアメリカの小説で読みましたが、暗い真実の共有による癒しというものは、遠回りでありながらやはりそうすることでしか見返すことのできない明日というものが在り、そうした未来を希求することは、いつの時代も文学や漫画や映画が持ち得る本来の可能性だと思います。

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