The Bill Evans Trio “Waltz For Debby”

1962

Bill Evansというジャズ・ピアニストが1962年に発表した”Waltz For Debby”というアルバムを聴きました。
1929年にプレインフィールドに生まれたBill Evansは元々クラシックのピアノの正式な教育を受けていたが、多感な時期に、ちょうど一世を風靡していたジャズと出会い、ジャズに転向しました。哀愁漂う、孤独感のある、誇張の決してない静かな音色が持ち味です。また、非常に繊細な神経の持ち主で、その繊細さからくる示唆の深い孤独が、音にあらわれています。彼の性格の持つ闇の深さを、彼は音楽に昇華できていたが、同時に、かなり重度のドラッグ中毒でもあったそうです。
Paul Motianは1931年にフィラデルフィアに生まれたドラマーです。ジャズのドラマーの中でも一際美しいドラムスのニュアンスを持つアーティストです。特にスネアやシンバルの高音域を撫でるように、囁くように細やかなリズムを織り成して、小川のせせらぎのような優しさと壊れやすさ、儚さを表現するドラミングが素晴らしいアーティストです。
Scott LaFaroは1936年にニューアークに生まれました。このトリオの最年長のBill Evansとは7歳も離れているわけですが、Scott LaFaroは深い内省を讃えながら、音楽的にニュアンスが深く、放っておくわけにはいかない音楽的なアイディアに溢れた二人(ビル・エヴァンスとポール・モチアンの二人)が醸し出す世界観とのバランスを、天衣無縫に織り成しながら、瞬時に奏でられる、天才的なアーティストでした。
Bill EvansとPaul Motianは、それぞれに、自由すぎる職人気質、というところが非常に強く、時には、どこまでも暗く、深く、語りに行ってしまう。この世界の限界を知らない二人は、時として、ずっと遠くまで離れていってしまう。そんな寂しい二人の、自由で孤独な、大きな振れ幅を瞬時に感知しながら、なおかつ健やかな詩情で、それらの振れ幅を更に広げるかのように高らかに謳いあげ、鮮やかなハーモニーに一瞬でまとめ上げる、力、というか、包容力、優しさ、暖かい心意気が、スコット・ラファロのベースにはありました。
このアルバムに収録されている”My Foolish Heart”は音かずが少ないスロー・テンポのバラードで、この3人のトリオの素晴らしい魅力が、最大限に愉しめる一曲となっています。
そうして、タイトル・ソングの”Waltz For Debby“は、リーダーのBill Evans自身の作曲によるもので、耳に残るキャッチーで美しいメロディーをタイトに奏でるビル・エヴァンスの端正なピアノは、ポール・モチアンとスコット・ラファロの限りのない拡がりを伴って、何処までも深く、優しく輝いています。
本作”Waltz For Debby”と、もう一枚のアルバム”Sunday at the Village Vanguard“がニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードというジャズクラブで録音された、僅か10日後の1961年7月6日、スコット・ラファロは交通事故にあい、僅か25歳で逝去されました。運命の残酷さと、人の一生の儚さを思わずにはいられません。
皆さんも機会がありましたら、ぜひ聴いてみてください。

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