“The Holy Mountain”

1973

こんかい観た作品は、黎明期のマルセイユ版のタロットカード(人類最古のタロットカード)の、初版当時の原板の保有者から、再印刷の手伝いを依頼されるほど、タロットカードの蒐集家/研究家としても有名なアレハンドロ・ホドロフスキー監督が、タロットカードの世界観を豊富に引用・踏襲・再構成しながら、人々の魂の孤独な遍歴を奔放なイマジネーションで描いた1973年のメキシコ映画です。

本作の冒頭にでてくるSaleになっているキリスト、というイメージを観て、小生などは若い頃、ビートルズばっかり聴いていたせいか、”The Beatles For Sale“を瞬時に連想してしまいますが、海外ではよくある風景なのだろうか。よく知らないけれど。日本では、鎌倉なんかに訪れてみたところで仏陀 for saleなんてのは稀ですからね。

・・・などと思いながら本作のwikipediaを拝読すると、ホドロフスキー監督が1970年に監督したエル・トポをジョージ・ハリソンとジョン・レノンが気にいったことで、本作はオノ・ヨーコとジョン・レノンによって出資され、更に本作のプロデューサーはビートルズのプロデューサーのAlen Kleinが担当したようです。Jesus Christ for saleということでビートルズを連想していたところだったので、思わぬところで繋がって驚きました。本作発表の時期は、ビートルズ解散からまだ日が浅い時期だとは思いますが、ビートルズのメンバーがホドロフスキー監督をサポートしていたことは、寡聞にして知りませんでした。

さて、本作の魅力は観念的で哲学的な、ストーリーらしいストーリーのない不思議な物語世界と、花や動物が頻繁にあらわれる、カラフルで幻惑的な画面のイマジネーションの豊富さです。しかし、哲学的といっても、ミケランジェロ・アントニオーニ監督の作品に観られるような洗練は、ホドロフスキー監督にはないと思います。ホドロフスキー監督の作品には、もっとサーカスの見世物小屋的な、おどろおどろしい安っぽさや、拭い去ることのできない生々しい血の臭いが画面に横溢しています。ホドロフスキー監督の作品が、極度に哲学的な内容でありながら、どちらかというとアントニオーニよりもフェリーニを思わせるのは、そのような生々しい血の臭いの土着性の強さにあるのだと思います。その土地に在る人々の、決して言語化されることのない涙の流し方、血の流し方のようなものを、ホドロフスキーやフェリーニは、いわば肉体的に、画面に投影してきたように思います。

最後に、山へ向かうのですが、山のシーンの精霊性というか、心霊の寒々しさの投影を観て、ソクーロフの“ファウスト”や、ヴェルナー・ヘルツォークの“アギーレ/神の怒り”のような作品を思い出しました。ホドロフスキーや、ソクーロフや、ベルナー・ヘルツォークは、それぞれの心のうちに、魂の遍歴の行き先として、聖なる山々の神々しさを、いつも滾らせているのだろうと思います。だからこそ、こんなにも印象的な、山々の風景を描くことが出来たのだと思います。

ホドロフスキーの近年の作品も小生は大好きだけど、やはりこの時代、ホドロフスキー監督の若かりし頃特有の、ある種の捨て鉢さというか、危うい雰囲気みたいなものは、けっこう心に迫るものがありました。皆さんも機会があれば是非ご覧になってみてください。

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