イカゲーム3を鑑賞しました。以下、話の核心に触れる重要なネタバレを含むため、ご覧になっていない方はお読みにならないでください。
イカゲーム、非常によかったです。
シーズン1,2,3と状況が目まぐるしく変わる中、登場人物一人一人の目的や選択が変わっていってしまうのが非常にリアリティがあってよかったです。
特にシーズン3の終盤、シーズン2の途中にはあった「悪を倒し」「正義を実現する」という高い理想に敗れ、最後にはただ赤ちゃんを助けるためだけの行動しか選べない主人公の悲哀、それを表現する名優Lee Jung-jaeには鬼気迫るものがありました。
人生の夢や目標を、もう永遠に叶わないものと諦め、若い頃には、こんなものが人生の中心だと気づきもしなかった、日々の小さな愉しみや、名前もつかないような小さな挑戦だけが人生の100%を構成するようになってしまった、35歳を過ぎた人たちには、このドラマは、刺さるのではないでしょうか。
キテレツな舞台設定には無理が多く、警官にイカゲームのあらましを説明して、変な奴と煙たがれるような反応を視聴者からも受けかねないですが、成立しているのか成立していないのか微妙なラインで、もっともらしいサスペンスを呈示することに成功しており、そうしたアラの多い設定を受け入れることは、ともすれば私たちが現代社会を生きることと同じです。
つまり、現代社会は、おかしく、矛盾だらけで、バカらしくてやっていられないし、行動を間違えるとすぐに死んでしまう、時間はないし、忙しいし、つらいし、きついし、痛いし、自分のことしか考えられず他人を考えている余裕がない瞬間だらけですよね。(違う、という幸福な方は、こんな変なドラマなどに見向きもせず、ロンドンのブラウンホテルの喫茶室でお茶しながらアガサ・クリスティでも読んでいてください)
そうした現代社会を生きるときに私たちが感じる、おかしさ、厳しさ、何もマトモには成立していないのに、何もかもがマトモに成立していると思い込みながら歩いてゆくことの虚しさ、情けなさを、このドラマは鏡面の中の世界のように、シンメトリックに表現しています。イカゲームの画面のなかで、キッチュに誇張して描かれる不穏なトラップや突然の死や恐怖や絶望感は、鏡に映る現実社会そのものとして機能しています。
途中、主人公がやる気がなく廃人みたいに3話のあいだずっと虚空を見つめているような長い時間、私にも憶えがあります。皆さんの心にもあるのではないでしょうか。
シーズン1を見始めたときには、日本の「カイジ」のパクりかな、と思ったけれど、主人公の諦めや、挫折感、護りたいものさえ護れない悲しさ、というところは、まだ若い夢の途中を描いた「カイジ」とちがい、人生の後半の悲哀をよく描いており、どんどん引き込まれてゆくドラマでした。また、子供の遊び、ダルマさんが転んだや、メンコや、ジャンケンや、かくれんぼや、縄跳びのようなものをノスタルジックに、キッチュに取り入れているところで、懐かしいのに怖いという不穏な感情を呼び覚まして素晴らしいです。子供ってけっこう残酷なので、子供のころの遊びには思い返せば「死」の要素が取り入れられたと思います。そういう子供時代の残酷な感情に鮮血の赤い色を塗りたくったのが本作だと思います。
私たちは、これからも、人生という、つらいだけでなんの救いもないイカゲーム(みたいなもの)を、これからもクリアしていなければならないわけですが、こうした最高のドラマを見ながらの旅路であれば、それほど悪くないかもと思わせる白眉の良作でした。
つぶあん的評価:83点
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