Snake Eyes / Brian De Palma

1998

今回は、Brian De Palma監督の”Snake Eyes“(邦題スネーク・アイズ)を再見しました。小生は、二度目の鑑賞です。日本でも大人気のニコラス・ケイジが刑事役で主演のクライム・サスペンス・ドラマで、ブライアン・デ・パルマ監督らしく、執拗にこだわり抜いたカメラ・ワークが魅力的な作品です。
小生は若い頃、同監督の“Phantom of the Paradise”という作品を50回も観ていて、小生は今のところ無宗教ですが、(宗教史や宗教学には、興味があります)なんらかの宗教に入っているとしたら、デ・パルマ教の信者と云っても過言ではありません。
何故そんなに好きかと云われると答えに窮し、魂に響いたとしか云いようがないんですね。
今回、デ・パルマの作品をずいぶん久々に鑑賞したけれど、やっぱり良いものですね。本作ではニコラス・ケイジが非常に魅力的で、破天荒な刑事役で非常にクールです。奔放で鬼気迫る感じが、とてもカッコいいです。ちょっと崩したスーツのファッションも、彼が着ると実によく似合っていて、ちょっとハッとするほどカッコ良かったです。昨今はキックアスなどに出演された関係で、結構コミカルな役柄の印象も強いニコラス・ケイジですが、小生はこういう2枚目寄りの役柄が、いちばん似合っていると思います。本作はすでに24年前の作品ですが、最近は、彼みたいにカッコよくて、どこか泥臭く、そうして線が細くないというような彼みたいな俳優は、けっこう稀有な存在になってきているのではないかと思います。
また、ヒロインのCarla Guginoも非常に魅力的で、チャーミングでミステリアスな「真面目な女の子」の役を好演しています。デ・パルマの映画において、美しい女性は、いつもちょっと偏執的な撮られ方をしています。本作においては、洗面所で上半身、下着だけの姿になって、べったりと付いた血を拭うシーンで、結構しつこい角度のカメラ・アングルなんですね。そういうところもデ・パルマ監督の作品の魅力だと思います。撮影監督はフランシス・フォード・コッポラ作品でもカメラを持ったことがあるStephen H. Burumで、ヒッチコックの”ロープ“もびっくりな超絶長回し、ホテルの天井と壁をブチ抜くamong usみたいなカメラワークなど、とにかくやりたいことが多くて、結果としてやりたい放題と云った様相のデ・パルマ監督の難しい注文に繊細に応えており、大勢が入り乱れる場面で紙が舞い、階段は斜めで、また、奔放にクロスさせる時間軸のせいで一発の銃弾を、何度も描き直さなくてはならないというところまで、ちょっと想像するだけでも骨の折れる大変な撮影を、とても巧くこなしていると思います。
本作の舞台になっているAtlantic Cityは、ルイ・マル監督スーザン・サランドン主演の、街と同じ名前の映画の舞台にもなっていますが、それなりに発展しているけれど、どこかピンボケした時代遅れな片田舎というイメージで描かれていると思います。明日への予感を背負うほどの光もなくて、さりとて風が吹くままに凋落してゆくわけでもない。どっちつかずの曖昧な感情のようなものを、色濃く抱えた街のイメージだと思います。実際に、小生はこの街に行ったことはありませんが、(アメリカ合衆国はハワイしか行ったことありません 苦笑)少なくともルイ・マル監督とデ・パルマ監督の映画を観ると、そういう行き先のない街というものが、この世界のそこかしこに点在していて、そういう街での1日を担う人々が、この世界の多くの様相なのだという思いが監督の中にあり、この二人の監督にとっては、この街を描くことが、取りも直さず、現代人の魂を描くことそのものだったのではないかと思っています。
そうした日常を描くための手がかりとして、アトランティック・シティという街が選ばれているような気がします。本作”Snake Eyes”のラストでは、新しいビルの建築に精を出す工事現場の、疲れた午後の風景に、コンクリートに埋め込まれた紅く輝くもののイメージが重なるけれど、ブライアン・デ・パルマ監督は、本作の撮影を通して、コンクリートのように平坦な、色味のないこの世界の日常風景の中に、紅に輝く何かを、なんとしても見つけてみたかった、また、本作を観た観客一人一人にも、それぞれに見つけ出して欲しいのではないかなと思っています。

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