“The Sheltering Sky” (Bernardo Bertolucci監督)を拝見しました。小生はBernardo Bertolucci監督の”The Conformist”(暗殺の森)やThe Dreamers などといった作品が大好きですが、本作も、『暗殺の森』という歴史に残る傑作に負けず劣らず素晴らしかったです。
洗いざらしの髪を厚手の帽子で纏め、慣れない風の中に混じる砂を見つめている女性を演じたDebra Wingerは夫や、夫以外の男性に惹かれながらもけっきょく「道に迷っている」女性を好演。John Malkovichは悠々と旅をしながらも確固たる何かに決して辿り着くことがなく、瞳の奥の不安をやがて病魔が侵してゆく、拠り所のない不安な男性を好演。そうしてCampbell Scottはどこか優しく、懐かしいような誠実さと、若々しい素直さを持ちながらも、Debra WingerとJohn Malkovich夫妻が通らざるを得なかったような世界の裏側のような魂の僻地には、まだ足を踏み入れたことのない何処かイノセントで健気な男性を好演。母親と二人でケチな旅をつづけながら、ニキビだらけの穢い顔で、他人に煙草銭をせびり、のみならず、他人の持ち物を盗んで売ろうとする、醜い人間の集大成のようなTimothy Spallの性格俳優ぶりも、見事のひとことで、薄ら寒い存在が際立って、見事なドラマになっていました。
叙情的で日本っぽい土着性をまったく感じさせないRyuichi Sakamoto(坂本龍一さん)の音楽も素晴らしいし、サハラ砂漠の所在のなさのなかで、生きることの曖昧さや、やりきれなさを画面の隅々にまで表現したVittorio Storaroのカメラは、砂漠の(その砂漠は、とりもなおさず、この星の全体像そのものである)冷たさ、残酷さを非常に情熱的に描いて、忘れられないものになっていました。
アラビアのロレンス、パリ、テキサス、アントニオーニの砂丘、イージーライダーなど、砂漠が多く出てくる映画で、大好きな映画が、小生にはけっこう多いですが、それらの映画の砂漠の描き方も、それぞれに、それぞれの映画の語り方で非常に強く印象に残っているけれど、本作の、赤みがかった砂漠の底のない寂しさ、生きることの頼りなさというのは、とりわけ心に迫るものがあり、月並みな云い方ですが何気なく生きる一瞬のかけがえのなさを、この映画を通して感じることができました。
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