接吻 万田邦敏監督

2007

今日は2007年の万田邦敏監督の作品『接吻』を拝見しました。公開当時、webに、ある方がとても良かったと書いておられて、小生も観たいなと思っていたが、気づけば15年も経ってしまいました。以下、ネタバレ注意ですので、ご覧になっていない方はお読みにならないように、お願い致します。

本作は、主演は小池栄子さん豊川悦司さんで、小池栄子さんの、やや薄幸でひとりぼっちの雰囲気と、豊川悦司さんの、もの静かな狂気を内に秘めた孤独感が、互いに惹かれ合う立場の相容れない二人を好演しており、万田邦敏監督の、その場に留まる空気の感触を大切に捉えるような落ち着いた繊細な演出で、じっくり観させてくれる良作でした。

小池栄子さん演ずる、お人好しの遠藤京子が居心地悪そうにOLの制服姿で働いている冒頭から、一人で住んでいる小綺麗な部屋を捉え、その部屋のなかで殺人事件の新聞記事やノートを黙々と作っているあたりの演出で、塀を隔てているのにも関わらず彼女の心は俗世を離れ、一般的な正悪の判断基準と全く関係ない、二人だけの世界へ入り込んでゆこうとするのですが、その目論見は、仲村トオルさんが演じる弁護士が象徴する、彼女が憎んでいる世界の強力な力によって、危うくさせられてゆきます。

豊川悦司さんは小生が大好きな作品『レイクサイド・マーダーケース』にも出演されている、云わずと知れた俳優ですが、本作でも風格溢れる名演を披露されています。薄汚いジャージ姿で、住宅街をふらりと歩くファースト・ショットは、豊川さんだからこそ撮れた風格のある素晴らしいシーンだったと思います。この世界から、長い年月を経て心が離れてしまった孤独な人間の佇まいを、一種異様な貫禄で見事に演じられていました。

結局のところクライマックスで、小池栄子さん演ずる遠藤京子は、隠し持っていたナイフを用いて、自らが求めた世界を血によって終焉させることになるのだが、そのあとで彼女が今まで散々避けてきた外側の世界に、どうして関わろうと願ったのか。あるいは、拒むことの裏返しの行動なのか。監督自身、インタビューで、あのシーンについて、「僕にも意味がよくわからない」というようなことを答えたそうですが、小池栄子さんは助けて欲しいと救いを求める気持ちを籠めて演じられたそうです。この世界には理屈では判り得ないことが、沢山あるということを想起させてくれる、仄かな余韻を残すクライマックスでした。

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