シャルル・クロス 燻製にしん つぶあん訳
それは大きな白い壁だった ー 剥き出し、剥き出し、剥き出しの、
壁には梯子が掛かっていた ー 高い、高い、高い、
地面には、燻製にしんが置いてあった ー 乾いた、乾いた、乾いた。
彼がやってきて手に取った ー 汚い、汚い、汚い、
重たい金槌と、大きな釘を ー 尖った、尖った、尖った、
糸巻きもひとつ一緒に ー 大きな、大きな、大きな。
それで彼は梯子を登った ー 高い、高い、高い、
そうして釘を打ち付けた ー トック、トック、トック、
大きな白壁のいちばん上に ー 剥き出し、剥き出し、剥き出しの。
彼は金槌を落とした ー 落ちてゆく、落ちてゆく、落ちてゆく、
釘に糸を結びつけた ー 長く、長く、長く、
そうして、先っぽに、燻製にしんを ー 乾いた、乾いた、乾いた。
彼はまた梯子を降りていって ー 高い、高い、高い、
梯子と金槌を手に持って ー 重い、重い、重い、
それから、どこかへ行ってしまった ー 遠くへ、遠くへ、遠くへ。
そうして、それ以来、燻製にしんが ー 乾いた、乾いた、乾いた、
その糸巻きの先っぽに ー 長い、長い、長い
ぼんやりゆったり揺らいでいる ー いつも、いつも、いつも。
僕はこの話を書いた ー 単純な、単純な、単純な、
奴らを怒らせるために ー 真面目な、真面目な、真面目な、
そうして子供たちを楽しませるために ー 小さな、小さな、小さな。
原文
Il était un grand mur blanc — nu, nu, nu,
Contre le mur une échelle — haute, haute, haute,
Et, par terre, un hareng saur — sec, sec, sec.
Il vient, tenant dans ses mains — sales, sales, sales,
Un marteau lourd, un grand clou — pointu, pointu, pointu,
Un peloton de ficelle — gros, gros, gros.
Alors il monte à l’échelle — haute, haute, haute,
Et plante le clou pointu — toc, toc, toc,
Tout en haut du grand mur blanc — nu, nu, nu.
Il laisse aller le marteau — qui tombe, qui tombe, qui tombe,
Attache au clou la ficelle — longue, longue, longue,
Et, au bout, le hareng saur — sec, sec, sec.
Il redescend de l’échelle — haute, haute, haute,
L’emporte avec le marteau — lourd, lourd, lourd ;
Et puis, il s’en va ailleurs — loin, loin, loin.
Et, depuis, le hareng saur — sec, sec, sec,
Au bout de cette ficelle — longue, longue, longue,
Très lentement se balance — toujours, toujours, toujours.
J’ai composé cette histoire — simple, simple, simple,
Pour mettre en fureur les gens — graves, graves, graves,
Et amuser les enfants — petits, petits, petits.
訳者による解説
1888年に逝去したフランスのナンセンス詩人シャルル・クロスが、1872年に発表した「燻製にしん」というタイトルの詩を翻訳してみました。
彼が亡くなった100年後の1988年に日本で生まれた小生は、20歳くらいの頃に彼の詩に出会い、強い衝撃を受けました。
フランス語は名詞のうしろに形容詞がくるため、オリジナルの文章の魅力やリズムを日本語に訳出することは、とても難しいです。苦心してみましたがいかがだったでしょうか。
シャルル・クロスは、生前、貧乏で、よく安酒場で、安酒を飲みながら、孤独風を吹かせるほどのわけもなく、ぼうっとしていたところを目撃されていたようです。
孤独風を吹かせるほどのわけもなく、煤切れた安酒だけが友達の訳者も、彼が感じていた惨めさや悲しみに、ずいぶん救われたものであります。
皆さん、お読みくださり、ありがとうございました。
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